君たちはどう生きるのか

※直接的な映画のネタバレは含みませんが、全く本編の情報を入れたくない方は読まないでください。

 

 

ドラクエとかゼルダとかRPGの主人公って喋らないじゃないですか。

基本的に頷きや身振り手振りなどで感情を表現して声は出さない。声が出るとキャラが自我を持ってしまい、プレイヤーには雑音に感じられてしまうかもしれない、自分を主人公に投影して楽しんでもらうために、なるべくフラットな世界観にするための演出ではないかと私は感じています。今では結構主流な演出だと思いますが、最初に「主人公は声やセリフはなくてもいいんじゃないか」と考えた人は頭がいいなと思います。しかし、ゲーム中で一瞬だけ、彼らの声を聞く事ができる瞬間があります。目の前にモンスターが現れても勇者の使命を課せられても仲間を殺されても声を出さない主人公、その彼の声が唯一聞ける瞬間。それは、息遣いです。走る時や戦闘中、微かに少年だとわかる程度に一瞬の喉のなる音と空気の音。私はあれが、めちゃくちゃ好きです。無口な青年が生きていると、息をしていると確かに感じられるあの音。いつも無表情な彼が目的のために歯を食いしばり目に光を宿し力を込めた一瞬に出るあの音。まじで良い。多分私の性癖の一つです。そんなことに、今回見た映画「君たちはどう生きるのか」の冒頭中数分で気づきました。

 

私がこの映画を知ったのはほんの数日前のTwitter。「ジブリの新作が明日公開されるのにそれをほとんど誰も知らない」というツイートを見て知りました。昔よく本屋で見た「君たちはどう生きるのか」丸メガネをかけた少年のイラストが大きく描かれた表紙だったと思います。それを原作にした宮崎駿の新作が何の話題性もなく、突然明日公開されるらしい。(今調べてみたら本の「君たちはどう生きるのか」と今回の映画は全く関係がないそうですが、そんなことを事前に調べてネタバレを踏む事が怖かったので本原作なのかも、くらいのテンションで劇場に行きました)流石天下のジブリ宮崎駿。今回の作品のまず一番強い掴みは、この大SNS時代で全く情報開示せずプロモーションもなく、バズリなんて言葉を一蹴するかの如く、ただ宮崎駿が作った作品を公開する、というものでした。結果としてその無骨っぷりが話題になっていましたが、それさえ監督自身は不本意というか気にしてもいなさそう。マジで元気なうちに好き勝手作っとこう、みたい人間がいるなら見れば、という監督の意思と、それでも客は入るだろうというジブリ運営たちの強い自信を感じる作品でした。

 

私が劇場に足を運んだのは日曜の昼、しかもららぽーとに併設しているタイプのTOHO。このいかにも玄人向け作品を見るなら絶対に選ばない方がいい時間と場所を選んでしまいました。でもいくらジブリとはいえ、ネット上では散々「宮崎駿の原液」だの「別に楽しくはない」だの言われていて、極め付けはあのシンプルかつワクワクしない図書館でしかみた事ないような児童書の表紙にありそうな映画ポスター。そんな作品を公開ほやほやで劇場に見にくるやつは、皆それっぽい面構えをしているだろう。私みたいにこだわりが強そうなミーハーだらけであってくれ。そう思いながら劇場に入ってまず目の前に座っていたのはガキ2人の家族連れ。思わず肩の力が抜けました。キャッキャ言いながらポップコーンを貪る子供。そしてそれを咎める事なくスマホをいじる親。何しに来たんだよ、お前ら。終演後、あいつらはどんな顔をして帰っていったんだろう、少しだけ気になるな。

 

ほとんど満員の劇場で私は老夫婦と若いカップルに挟まれた席に着きました。私はTwitterでこの作品を知りましたが、この劇場を埋めている人間たちは一体何を見てこの作品を知ったのでしょうか。みんなツイッタラーなのかな。いかにも情報に疎そうな年代もいるけど(大失礼)、そんな人たちも含めてノープロモでこれだけ席を満杯にてしまう「宮崎駿」というネームバリュー。改めて化け物なんだな、と映画泥棒の時点で鳥肌が立ちました。そして、始まった映画本編。アスペクト比16:9。映画素人なので詳しくはわからないですが、いわゆる映画館の横長なスクリーンから両端を残し、比較的テレビサイズに近い比率での映像、そして遠くから聞こえるサイレンの音。なるほど戦時中の話か。一瞬で与える情報量だけで感覚的に背景を読み取らせる、私は一部しか感じ取れていないだろうけど約2時間の至るとことでそういう力をたくさん感じました。そしてその力によって私が何より心を掴まれたのは、主人公です。声優オタクあるあるですが、アニメキャラが喋り始めた瞬間にその声は誰なのかを考えてしまいます。しかしジブリ作品は俳優起用も多く、今回も例に漏れずその類の声の主人公でした。しかもこれは私の感想ですがこの主人公の声を担当した方は、俳優の中でも若手、まだ自分の型がない真っ向勝負でぶつかってくるようなお芝居の方で、それが特に主人公と重なり、刺さりました。また、冒頭の主人公の口数の少なさ。これがこの作品が私をより引き込む要因だったと思うのですが、これにより彼の僅かな息遣いがより浮き上がって聞こてきました。そう、RPGの主人公理論。しかし声だけでなく、セリフが少ないからこその表情の動きや行動の意図。何でもモノローグで喋ってくれる主人公よりこちらに考える余白を与えてくれて、それがよりリアルの人間らしくスクリーンに写り、かつ私の隣に座っているようでした。ちなみに私が本編で心を揺さぶられたのは寝息が聞こえてきた寝顔のシーンとジャムトーストを頬張るシーンです。非常に様々な感想がある作品だと思うので私以外の人間がどのシーンを山場に感じるのか分かりませんが、取り止めのないシーンの様で、胸に刺さるあのシーン。むしろ胸に刺さるように仕向けられたように感じました。その2シーン単体の画力や音力もありますが、それよりもそこまでのシーンがたくさんの意味を持っていたのだと思います。これが演出ってやつか。

 

エンドロールが流れ、照明がついた後、一人で映画を観た後の皆さんはどの様な行動を取りますか。作品にもよると思いますが私は今回、絶対に誰の感想も聞きたくないと感じ、光の速さでイヤホンをしノイズキャンセリングモードをONにしました。誰かと感想を共有したり考察サイトを読むのも非常に楽しい作品だと思いますが、とりあえず今日1日はこのブログを書いて一人で浸りたいと思います。そしてここから愚痴です。ずっと隣でポップコーンを食いながらあり得ないタイミングで笑い声をあげていた隣の若いカップルの男。お前その隣の女どうやって落としたの?てめえみたいなのがいるから公開してすぐの映画館って行きにくいんだよ。あとエンドロール終わった途端「意味わかんなかったな」って言ってるガキ、意味わかんないものを楽しむ覚悟がないのに明らかに意味わからん作品をわざわざ劇場に見に来るな、せめて少しだけわかったようなフリしてろよバカ丸出しすぎるだろ。浸ってる大人たちの気持ちも汲め。

 

レイトショーより昼間に見ることをお勧めしたい作品でした。でも家族連れの多そうな総合商業施設併設劇場はやめておけ。

みんなも観に行こう。