根比べでお姉さんに勝った話

T〇Cのフェイシャルに行ってきました。

 

たしかZOZOを頼んだ時に入ってたんだと思うんだけど、TB〇のチラシに毛穴など顔のスキンケアが色々できるコースが通常13000円のところ4000円で受けられる、って書いてあったのがきっかけだった。フェイシャルって聞いたことある気がするけどよくわかんなかったから体験してみたかったし、最近美容液の類はもう買い飽きて特に効果を感じられたものもなかったし、ここらでプロに色々教えてもらおうかなー、まあ4000円なら最悪ええやろー、とチラシを捨てることなくいつ予約とろうかとタイミングを見計らっていて、今回。ちょっとイベントも重なるし今だ、とネットから予約を取りそれなりにわくわくしながら迎えた当日だった。

 

入口から中は見えないエステらしい面構え。シンプルで高級感のある店内。さすが有名〇BCだな、と思いながら受付で名前を告げると注意事項の書かれた紙を渡され椅子で待つように案内された。サラッと読み終わってぼーっとしたタイミングで今度はパソコンとベルを渡され、アンケートと個人情報を書いて終わったらこのベルで呼んでくださいとのこと。そんなに広い店内ではないし私ともう1人しか客はいないけど、まあ大声で呼ぶよりベルの方が気楽の人もいるのかなあと思いつつ受け取り、こちらもサラッと記入。ベルで合図しパソコンを回収してもらうと、今度は今まで案内してくれたスタッフとは違う人がきて開口一番「お支払いをお願いします」と言われた。ん〜まあ、まだ何もしてないしなんの説明も受けてないのに金を払うのは若干の抵抗があるけど、そういうシステムなら仕方ないか。施術後に文句言って客が金払わない事とかあるのかなあとエステ業界のあるかもわからない闇を感じながら4000円のお支払いをカードでした。今思うと、施術後に追加料金勝手に付けられてるとかの怖さを客が感じないための配慮だったのかもしれない。でもだとしても、その一言言って欲しかったけど。

 

ウダウダ考えてる間に名前を呼ばれて、少し店内の奥まった場所にある着替え部屋に通された。スタッフのお姉さんに「デコルテまで施術行いますので下着まで脱いでこちらのガウンにお着替えください」と言われ、案内されたロッカーの中にはガウンとスリッパが置いてあった。なるほど顔だけだと思ってたけど首下までやってくれるのかと思いつつ服を脱ぐ。すると外の廊下から他のスタッフの明るい声と客の声が聞こえてきた。「どうでしたか?脇の下の当たりとか」「すごい違います!」「良かったです、そう言っていただけて嬉しいです。ではこちらで……今お着替え中の他のお客様いらっしゃいますが大丈夫ですか?」「ああ、はーい大丈夫よ」「ではこちらでお着替えお願い致します」「はーい」そんな会話の後、直ぐにその声の主であろう客が今から私が着るガウンと同じものを着て部屋に入ってきた。………うーんまあ、別に全く問題ないけど、なんでお前は他の客がいていいか確認をされて、私はされないんだ?廊下と着替え部屋はカーテン1枚で隔たれていてどう考えても中に外の会話は聞こえているし、その配慮はあっていいと思うけど。てかごめん、脇の下ってなに?

なんて考えながらピアスを外していたんだけど、あまりにも付けっぱなしにしてるせいで外すのに手惑ってるうちにさっき聞いた会話なんて完全に忘れた。馬鹿でよかった。なんとか着替えを終えるとさっき着替え部屋まで案内してくれた人が今度は施術室に案内してくれた。

 

施術室は個室で、真ん中に歯医者みたいなリクライニングできる椅子と壁際に机と椅子があって、それなりの広さと清潔感があった。おおいよいよ美容サロンだなと緊張して、受け答えする自分の声が高くなったのを自覚して、さらに緊張した。すぐ施術かと思いきやまずは壁際の椅子に座って今日の流れの動画をみて肌悩みアンケートを答えて待つようにいわれ、10分ほど経つと再びさっきのお姉さんが来て所謂カウンセリングが始まった。「今日気になるのはどこら辺ですか?」「普段どんなスキンケアしてますか?」「まずカメラで肌状態確認しますね」「今のお肌はこんな感じですね」「今回はこのような施術を行っていきます」、と20分程度の『所謂』な会話が繰り広げられた。自分が緊張してる自覚があったのでわざとこちらから崩した話し方をしてみたり、テンプレから外れていけそうな受け答えをしてみたんだけど、お姉さんは一向に型から外れず、かと言って淡々とした口調なわけでもなく、あんまり柔軟なタイプでは無い新人なのかなという印象を受けた。様々な説明が終わったあと、ではこちらの椅子にお願いしますと歯医者椅子に誘導され座り背もたれを倒され、いざ施術開始。「まず拭き取りからです」

 

お姉さんの声と共に冷たいコットンが頬に触れ、顔全体を丁寧に拭き取られていく。次になんかのクリームが乗せられ恐らく洗顔が行われる。最初の拭き取り以外はお姉さんの素手で顔を触られてる感覚があって、なんか他人に顔全体をガッツリ触られまくる体験なんて初めてで、ええ今めちゃくちゃ知らない人にめちゃくちゃ顔こねくりまわされてない?と途中で笑いそうになった。何されてるかも分からないしただされるがままに横たわってたんだけど、急にぽっかぽかのタオルを顔全体に被せられてあつっ?!と思う間もなくタオルの上から顔面をぎゅーって押され、えっなに殺される?と思ったら、力が緩められて今度はそのタオルで顔全体を拭き取られ、また「拭き取りますねー」とコットンで顔を撫でられた。………何言ってるかわからないけど、私も何されてるかわからなかった。

 

ここで気づいたんだけど、このお姉さん今から何やるよの告知が限りなく少ない。地味に3つの脱毛サロン(ないし医療)に通った経験のある私は、視界を奪われた状態でされる施術は常に「熱くなります」「冷たくなります」「〇〇から触ります」等アナウンスがあってからだと慣れてしまっていた。でもこのお姉さんは、熱いも冷たいもタオルの上から顔面プレスも全部急に行ってくる。いちいち確認取られるのも面倒だけど今回が初めてだし顔という敏感な部位だし、少し確認してくれてもいいんじゃないかなどと思ったが、常に顔面をこねくりまされていたので余計な言葉を発する余裕はなくあれよあれよと施術が終わり、では肌状態ご確認ください、とさっきの椅子にまた座るよう促された。(ちなみに顔面プレスの他には、いきなり肩甲骨の辺りまでガッと手を突っ込まれたり首の下まで滴るひたひたパックを乗せられたり首の下にほかほかタオル突っ込まれて銭湯のおっさんよろしく首下をゴシゴシ左右に拭かれたりした)

 

元々今の経済状況で数万の契約をするつもりはなかったし、受付から施術までの中でチリツモの不信感を重ねた私は、これから始まるであろう営業トークに絶対に屈しないという強い意志で壁際の椅子に座った。座ると想像通り「肌の具合はいかがですか?」「どのように変化を感じましたか?」「こちらのプランですとさらに効果を期待でき」うんぬんかんぬん。全ての話に興味を持つでもなく失礼でない程度の笑顔で相槌を打ち、いざプランの具体的な金額を踏まえた「如何ですか?」に私は渾身の「んー、でも今回は。また検討させていただきます」を放った。何度経験しても、この瞬間は嫌な心地がする。ごめんねお姉さん、契約とりたかったよね、でも私もそんなに余裕ないんだ、ごめんね。痛む心と少しひりつく空気。でもよし、これであとは数ラリーしてごめんね顔して帰宅だ、と思った矢先、

 

「では今回の施術はどう感じました?」

 

と手元のタブレットを操作しながら聞いてきた。えっ、………あ、まだ終わらないか。まあでも向上心のある方なのかな、今後参考にってこと?まあここから数ラリーしたら消化の営業トークされて終わりかな。

 

「あー、でもここら辺の毛穴は気にならなくなった?かな」

「でしたらこちらのコースを続けて頂ければより効果を実感できるかと思うんですが。綺麗な肌になるにはこちらがいいかと。」

 

………えっ、あ、え?、怒られてる?まあでもそうか、?13000円レベルのものを4000円で受けてるんだからそう簡単に返すわけにもいかないんだよね、お姉さんも。もう一押し必要か。

 

「んーでも今回はごめんなさい。見送らせてください」

「金額ですか?内容ですか?こちらの内容ですとどこかご不満でしょうか?」

 

あれ、営業苦手そうな新人だと思ってたけど、結構言うこと言えるんだなあ、やっぱり営業って大変だなあ。でもごめんねお姉さん、こっちも曖昧に断ったのが良くなかったよねちゃんと断るね。

 

「んーでもちょっと家に帰ってちゃんと効果を感じてからまた検討して伺います、すみません」

「先程のカウンセリングで効果を感じたと仰って頂けましたよね?」

「えー……そうですね、でも今日色々教えて頂けたのでもう少し家でのスキンケアとか頑張って……

「ですがもう色々市販のものはお試しになられたと」

「はいほんとすみません、でも金銭的に今は」

「ではこちらのスタートプランでしたらこちらのお値段でご案内出来ます」

………あー、じゃあまた検討して来ます。次伺ってもこちらのお値段で契約できるんですもんね?」

「はい。ですが契約当日の施術は出来ないので本日中のご契約の方がいいと思います」

 

だいぶ要約脚色したけどこんな問答を数十分にかけて繰り広げた。じゃあこの35万の契約で、と言って契約してしまった方が楽なんじゃないか。この状況から脱せるなら数万の出費も構わないかも。何度断わっても受理されないから、いま契約するか、立ち上がって逃げるか以外の道が見つからなかった。でも、そう思わせて泣きの契約までが戦略か?と思うとそれに負ける訳にはいかなくて、結局どんなに強い言葉で断っても折れないお姉さん、人間の心を失ったかのように淡々と折れないお姉さん、押しが強い訳でもないしトークがうまいわけでもないのに「なんで契約しないの?」と言わんばかりだったお姉さん、正直お前の施術も説明もイマイチな気がするし効果もそれほどわかりやすくはなかった。最後にわたしが頭を下げてごめんなさいと言うと、お姉さんはすっと諦めて部屋から私を出してくれた。頭を下げたことがきっかけか、時間制限式の出られない部屋だった可能性もあるけど、着替えを済ませ手惑うピアスをつけるのは諦め、受付で領収書をもらい、店の出口で見送られるまで私はもう二度とこのお姉さんの顔を見れず、逃げるように店舗を後にした。

 

最初は普通のお姉さんだと思っていたのに、店から出て小走りになった私の頭の中ではお姉さんは完全に悪魔の蛇のように感じられた。この社会経験も含めて4000円の価値があったのかもしれない。あと体験してわかったけどフェイシャルって言葉オシャレすぎるだろ、ただのめちゃくちゃ丁寧な洗顔だったぞ。みんなもこわい営業には気をつけてな。