置き手紙

 

 

今日も今日とて、飲食店畜生アルバイトとして身を捧げ一日を終えました。

ホールスタッフとしては今の職場でしか働いたことがないので比較対象がありませんが、土地柄なのか、私の店ではお客さんにセクハラまがいのことを言われたりされたりすることがまあまあよくあります。

「お姉さんいくつ?」「かわいいね」「連絡先欲しいな」くらいのやりとりはよくある話で、年齢の話から関係ない話題に話を広げるレパートリーも増えたし、連絡先の交わし方もだいぶ手馴れて来ました。

そう言った会話は、向こう側もある程度社交辞令というか、適当に店員に絡んでいるという気持ちでしかないことがわかっているので、こちらとしてもそこまで極端に気を悪くすることはありません(慣れもあると思うが)。

 

しかし今日の客は本当に不愉快でした。

男性4人組で、どうやら常連客。私の担当卓で、最初に伺った時からどちらかというと横柄な、嫌味な言い方をすると通ぶった感じの方だったので、こちらもあまり下手なことを言わないようにしようという気持ちで対戦開始。

 

長時間その卓で話をする時間があり、適当に話を振られることに対して対応していた最中。

「お姉さんちょっとマスクとってみてくれない?」

これは今思えば正当なセクハラとして受け取っても良かったと思うし、適当に断る術もあったかと思いますが、その場でニコニコ対応していた私はマスクを一瞬外しました。なんか、伝わるか分からないけど、外してと言われて客が私の顔に注目している中で外すその流れは、ただマスクを取るという行為よりもかなり重たい羞恥を伴うものでした。

そしていざ外した私の顔面を見ると、2秒程度の間が空いたあと、

「思った通りだね」

想像してみてください。4人が自分の顔下半分を見ている中でおそるおそるマスクを外し、それから2秒の静寂が流れる瞬間を。

(思った通り)かわいいね というポジティブな意味で言ったつもりだったのかも知れないけど、もう正直言ってそこでどんなリアクションを取ってももうダメなんですよね。褒めても貶しても空気はよくわからん感じになる。

この現象を、マスクハラスメントと名付けたい。

そんなこんなでマスハラを受けた私ですが、客に容姿について褒められたり何か言われたりすることはそこそこある中で今日ここまで私が不快に思った理由は、「完全に女を見下している前提でのセクハラや褒め言葉」であることを感じてしまったからだと思います。

別に私は自分の身を買われて働いているわけでもなく、ただ料理を運ぶ機械として(というのは言い過ぎだけども)働いているので、どうしてそんな中でこんな性質の不快感を感じなければいけないんだろうか。

 

その後、ある料理についてその客から質問がありました。

私の知識の範囲で解決出来る話だったのでその場で対応したのですが、どうにも納得しない様子で急に機嫌が悪くなったので、男の社員に通しました。

社員は私がした説明とほぼ全く同じ説明を客にしました。

すると、まるでオードリーのネタの最後のようにアハハハハと和気あいあいと会話が進み、さっきの私の説明はなんだったのか、マレー・インドネシア語でも私は喋っていたのかという感じでした。

その時点で改めて私は舐められているなと感じながらも、露骨にその卓から離れる訳にもいかず接客を続けます。

 

ラストオーダーの時間になりました。

客は私におすすめの料理を聞き、私はある食事を提案しました。すると、

「さっきは信用できなかったけど、今度こそお姉さん信用するね」

 

 

ハートランドの瓶で殺そうかと思いました。

あなた方が私を信用しようとしまいと勝手なのだが、聞いといてその言いようはなくないか。ちょっと人のこと舐めすぎじゃないか。

あやうく人をひとり殺してしまうところでしたが、報道されたら店に迷惑がかかるのでやめました。

 

ざっと挙げるだけでもこんな感じで、怒りと言うよりも不快感を覚えるようなタイミングが他にもちらほらあったのですが、私が大きな声でNOと言えない理由は私の気が弱いからではなく、店の従業員としての地位があるからです。

最近のうちの店のクチコミはひどいものです。人手が足りないのもあり、常にサービスが間に合わずボロクソ書かれていることもしばしば。そんなことわざわざ書かなくてもってことまで書かれることもある中で、こんな小娘がセクハラに嫌悪感を示そうものならどんな書きようをされるかわかったもんじゃない。

私が暴れ回って私が怒られるだけなら人の子ひとりふたり粉砕しても問題ないのですが、会社に所属しているというだけでこんなにも屈強な私さえもが言葉をつぐむことを強いられてしまう。

 

だけどこれってもう、いくら社会の構造が変化しようと、主観として「女は無下に扱っていいもの」という思想を持つ人がいる限りどうにもできない状態であると思うんです。

 

だからどうするかというと、そのような殿方を全員殺すことに決め、私は今日出家します。

 

また会う日までご達者で。